ストマックバンド

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【コラム】カメムシとハンドソープ

 

 

 

 

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当時ボクの住む街には駅前にキャバクラが一件だけあって、金曜日の夜、俗に言う華金には大勢の男たちが店の前に行列を作っていた。

 

ボクも当時の会社の先輩達に連れられ、その店に何度も通っていたが、一度たりとも奢ってもらったことはなかった。まあそれはいいけど。よくねえわ一回くらい奢れよクソ上司!(根に持つタイプ)

 

 

この日も会社のグループでいつものように焼き鳥を頬張ってからのキャバクラという定番コースをなぞっていたんだけれど、まあまあの序盤から、ボクらのいるボックス席からはうっすらカメムシの臭いがしていた。

全員気づいているけれど、うっすらだから言うに言えない。ましてやそれが自分の臭いだとするならば、この後のキャバクラに支障が出る。

 

誰だよ。俺じゃないよな。名乗り出ろよ。

 

そこにいる全員が疑心暗鬼になる中、ボク一人だけ、臭いの元に気づいていた。

 

それはなぜか、

臭いのは自分だからである。

 

 

この日はHANJIRO(古着屋)で買ったお気に入りのジーンズに、RAMONESのラグランTシャツ、その上にカーディガンを羽織る、当時の(ボクの中での)鉄板コーデ。

 

ジーンズの右膝、もっと詳しく言うと、右膝の後ろ側。

焼き鳥屋の汚いトイレで確信した。

知らない間にカメムシがそこにいて、知らない間にボクの膝の屈伸運動で潰されたか危険を感じたかで、悪臭を放ったのだろう。めちゃくちゃ臭かった。

 

膝裏からの臭いを気づいていないふりをして、キャバクラへ向かう。

 

「カメムシボクっすわww 邪魔になるんで今日は帰らせてもらいますw」

なんて言えればよかったのに、言えなかった。

 

 

このキャバクラ、当時は比べる対象がいなかったから、まあこんなもんかと思っていたけれど、よくよく考えるとクオリティが低い。

相撲やってんのかと思うような巨漢から、随分歳をとったフィリピン人(このフィリピン人はめちゃくちゃいいヤツだったから嫌いじゃなかった)、明らかにシンナーやってる歯ボロボロのブス、、、他にも個性がいっぱいのメンバーで、さながら夜の動物園。

更に言うと、ここで働いているほとんどの女性は、夜間保育に子供を預けているシングルマザーらしかった。まあそんなことは誰も気にしていないが。

 

 

必ず誰かを指名するのは、ボクたちのグループのルールだったから、ボクはなぜか毎回、『占いババ』というあだ名がついた、ほうれい線が深くて口がやたら臭い女の子を指名していた。

 

しかしながらこの日は運よく(?)占いババが休みだったので、フリーで入ることを許され、ボクについたのは同じ小学校出身で1学年上の女だった。

向こうは気づいていないが、こっちは気づいている。ブスだから一度見たら忘れない。

 

なんかカメムシ臭くない〜〜?www

 

放り込んできた。一発目から。誰も言わないようにしてたのに。このブス。プロ意識がないのは顔だけにしとけよな。

 

「犯人お前やろ〜!!」

 

私ちゃうし〜〜!!w

 

必死でブスのせいにしたけれど、膝裏が疼く。俺はここだとカメムシの残り香が叫ぶ。

 

それでもなんとか誤魔化しながら一通りのカメムシの話題が終わり、しょうもない会話を続けるが、何も頭に入らない。臭いしか入ってこない。

 

 

 

もう限界だ。

 

 

 

「ちょっとトイレ行くわ」

 

そう言って、席を立つ。

逃げ込んだトイレで見つけたのは、どこのメーカーかも知らない安物のハンドソープ。

「どうか、何卒…」

藁にもすがる思いで膝裏に塗り込んだ。

 

 

するとどうだ。臭いが消えたのだ。これで救われた。

 

しかし喜んでる暇はない。急いで戻らなければ、ボクがいなくなった瞬間に臭いが消えると怪しまれるかもしれない。

 

トイレを出るとブスがおしぼりを持って待っていた。

臭いのことを言われるか不安だったが、何も言ってこなかった。

 

席に戻って会話を続ける。ようやく少しだけ楽しくなった。

 

だが10分くらいすると、またカメムシの臭いが漂ってくる。

自分が敏感になっているだけかもしれないが、一度気になるともうそれしか入ってこない。

 

「ごめんトイレ行くわ」

 

それから店を出るまで、ボクは10分おきにトイレでハンドソープを塗り込むマシンと化した。

この日おしぼりを一番消費したのはボクだろう。

 

トイレが近いのもネタにしながら、耐え忍んだ1時間半。お会計は8000円。

案の定一切奢ってもらえなかったけれど、キャバクラにいる間、一度もカメムシをボクのせいにしなかったから、もしかしたらいい上司なのかもしれないな。

 

 

そして帰り道、ふと思う。

ボクは何に8000円を払ったのだろう。

 

「ハンドソープとおしぼり代だとしたらぼったくりだなあ」

なんて、夜風に乗ってほのかに香るカメムシの匂いをお土産に、寒空の下、家までの道のりを歩くのだった。

 

 

終わり。