ストマックバンド

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【ブログ小説】童貞花火 -第三章-

 

 

 

第一章

 

第二章

 

 

 

Fireworks

 

ep.11 再会

 

花火大会は夕方からだったけど、サヤちゃんの提案で、午前中から会うことになった。

問題ない。何パターンも作ったデートプランに抜かりはない。

この場合、カラオケからのレストラン、そしてカフェ。最後に花火。先にカラオケに行くのは、緊張しながら会話するより先に歌うほうが距離を縮められるからだ。我ながら完璧なプランである。

 

ポロシャツにネクタイを締めて、ピカピカの愛車に「頑張ろうな」と声をかけ、実家まで迎えに行った。

久しぶりに見たサヤちゃんの家の隣には大きなマンションが建っていて、日当たりが少し心配になった。ウサギ小屋はなくなっていた。

 

ついたよ、とメールしたと同時に、彼女が家から出てきた。浴衣だった。

 

数年ぶりに会ったサヤちゃんは身長が高くなっていて、キレイになっていた。

浴衣補正もあったかもしれない。それでも想像していたよりずっと可愛くて、ボクはすでに虜になっていた。

 

彼女は助手席に乗り込んで、こっちを見てどうしようか?って聞く。

ボクは今思いついたかのように、カラオケ行こうかって言って、エンストしないようにクラッチを繋いで、車を走らせた。

初めて家族以外の女性を乗せた助手席からは、これまでに嗅いだことのないようないい匂いがした。

 

 

ep.12 デート

 

女性と二人きりでカラオケに行くのは初めてだった。車も密室だけど、部屋が密室なのはまた違う感じがして、すごく緊張した。

歌うのが比較的得意だったボクはちょっとでもいいところを見せたくて、練習してきたモテ曲ランキング常連のミスチルやEXILEを熱唱したけれど、サヤちゃんが歌うのはアニソンばかり。彼女が歌う間、知らない曲にも必死で手拍子した。

ボクの曲にあまりに食いつかないもんだから、だんだんカッコつけてJ-POPを歌うのが逆に恥ずかしくなってきて、途中から一緒にアニソンを歌うことにした。

一度も歌ったことはなかったけど、何度もDVDで見たケロロ軍曹のオープニング曲や、涼宮ハルヒのダンスは意外と覚えていて、自分でもびっくりした。

気づけばあっという間に2時間経っていて、マイクは手汗で濡れていた。

 

もちろん会計は自分で支払って、空いていなかったけど、お腹が空いたねと言って、ファミレスに向かった。

オシャレなお店は知らなかったし、静かだと逆に落ち着かないから。サヤちゃんも賛成してくれた。

 

 

ファミレスで向かい合わせに座る。

店員さんや他のお客さんから、多分カップルだと思われてるんだろうなあと思うと口角が上がってしまいそうになるので、水を飲んで誤魔化した。

2人揃ってオムライスを注文して、生まれて初めてオムライスを真剣に食べた。

こぼしたり、ご飯粒を残したり、ケチャップを口の周りにつけたりしないように。

サヤちゃんはお腹いっぱいだって言って、半分しか食べなかったから、残りを代わりに食べた。緊張でお腹が全然空いていないのに、オムライスを1,5人前も食べきったことをもっと褒めてくれてもいいと思う。

ドリンクバーを飲みながら、ようやくゆっくり話ができた。サヤちゃんも心をひらいてきたようで、どんどん饒舌になる。ボクも自分の引き出しをすべて開けて、会話を楽しませようと必死で頑張った。

 

 

ep.13 告白

 

それは突然のことで、ボクは耳を疑った。

体中に電気が走った、というのはこういうことなんだと思う。

 

ボクがあまりに聞き上手だったからか、サヤちゃんがそういう性格だからなのかはわからない。可愛い笑顔の彼女の口から「パパ」と聞こえた。

お父さんではない。パパだ。

 

 

サヤちゃんは、援助交際をしていた。

 

 

彼女曰く、アルバイトでコンパニオンをしていて、”パパ”はその会社の社長らしい。

チャイナドレスを買ってもらっただとか、パパの車は大きすぎて駐車スペースを2台分使うんだとか、そんな話を笑って話すから、ボクは笑って聞いた。

笑うしかなかった。情けないけど。

 

援助交際をしているのはまあいい。よくないけど、いい。

問題はなんでそれを今言うんだって事。妹の件でボクの気持ちは伝わったと思ってたのに。そもそも花火大会に誘ってんだから好意があるってことくらいわかるだろう。なんでわざわざボクにパパの自慢をするんだよ。

 

何度も何度も心のなかで叫んだけど、この心の声は出さないようにした。今度は逆に、必死で口角を上げた。もう水を飲んで誤魔化したりしなかった。ここまできたのに、最後までやりきらないと、あれだけ力になってくれた親友に顔向けできない。ボクはなんとしても女の子と花火大会に行かなくちゃいけない。

 

ひたすら笑顔で自分の話を聞くボクを、よく思ったのか、バカにしたのかはわからない。サヤちゃんの口から、更なる銃弾が発射されて、ボクを襲った。

 

 

ep.13 追撃

 

彼氏がいた。

 

パパではない。パパはあくまでもパパなのだ。

サヤちゃんには、同じ大学に彼氏がいるらしい。

 

パパの話が一通り終わったら、次は彼氏の話で攻めてきた。

こっちには何も迎え撃てる弾がないのに、一方的にも程がある。

「こんなメールがきてさ」って言って、Re:の連続したメールを見せてきた。ハートの絵文字が眩しい。

 

トイレに逃げても、ドリンクバーのおかわりに逃げても、戻ってきたところを狙撃される。

幸せそうなツーショットや、彼氏の寝顔の写メを見せられた。もうどうでも良かった。

精一杯の抵抗で、『彼氏はボクと一緒に花火大会行くことをなにも言わないの?』と聞いたら、「大丈夫、彼氏は嫉妬とかしないから。」だそう。

そうか。いい彼氏さんだね。

ソイツの名前も聞いたけれど、忘れてしまった。

 

ep.14 夢

 

どれだけの仕打ちを受けても、やっぱり花火大会に行かないという選択肢はなかった。

数ヶ月間、そして今この時間を必死で頑張ってきた自分にも、親友にも申し訳ないし、そしてこの期に及んでまだ、サヤちゃんを嫌いになれていなかった。わざわざボクのために、妹の誘いを断って来てくれたんだからって。

 

花火が始まる時間まで、カフェには行かずにファミレスで話したり、ドライブしたりして過ごした。サヤちゃんは久しぶりに帰ってきた地元の変化にびっくりしていた。ボクは君の変化にびっくりしてるよって思ったけど言わなかった。

 

花火大会には物心がつく頃から毎年行っていたから会場はもう庭のようなもので、どこで一番きれいに見れて、尚且つ場所取りがいらないかというのも全て熟知していた。

そんなとっておきスポットを惜しげもなく教えて、2人で並んで座った。もともとそうするつもりだったから。

いよいよ花火が始まる。

 

 最終章へつづく